職業プログラマの休日出勤

職業プログラマによる日曜自宅プログラミングや思考実験の成果たち。リアル休日出勤が発生すると更新が滞りがちになる。記事の内容は個人の意見であり、所属している(いた)組織の意見ではない。

コンサートホールでの演奏のライブ配信

この晩秋から初冬にかけて、筆者の所属バンドの演奏会および友人の所属バンド(いずれも英国式金管バンド)の演奏会にて、演奏をライブ配信するということをやりました。ライブ配信をやる理由は想像に難くないことでしょう。ここでは語りません。

いずれの配信も「最初の割には上手く行った」と評価できるものではありましたが改善すべき点も多くありました。今後の自身の成長のため、そして同業者*1や類似の演奏形態*2の皆さんのためにも、メモを公開しておきたいと思います。

検討すべき事項ごとにまとめて書いてあります。なお、この記事は、アマオケ情シスSlack#配信 チャンネルに書き込んだ内容に、相当な量の加筆訂正をしたものになります。

機材の設置場所

多くの団体がこれまでにも録画や録音はしていたと思うので設置場所の選定には一家言あるところもあるでしょうけども、注意点をいくつか。

  • 観客の邪魔にならないか?
    • 配信機材は発光するよ
    • 容姿や声が配信されることを嫌がるお客さんもいるはずだよ(プライバシーの問題)→ お客さんが映り込まない角度や解像度での配信とすることは結構重要。配信してるよってアナウンスも有益。
  • 電源あるか?
  • ホールの吊りマイクから音を拾う場合、その配線は可能?
  • 通信回線の電波は届く?
  • 盗難防止対策は簡単に取れる?(人が見張れる場合であっても、盗難の試行にすぐに気付ける?)

通信回線

  • 技術的にはここが一番頭を抱えるところですが、「映像のビットレートを落とし、音声はそこそこ綺麗に流れる」状態で良ければ、携帯回線で配信可能でした。他の設定によっては綺麗な映像でも携帯回線でできます。
    • パケ死(死語?)しないための事前準備は重要です。
    • 上り回線を徹底的に強化した、いわゆる「配信用のモバイルルータ」をレンタルするっていう手段もあります。こっちの方が品質的には優れていると言えますが、事前テストがやりにくい点は注意です。レンタルで回線を抑えつつ、バックアップとして携帯電話回線を用意しておくのは良いことでしょう。
  • ホールの下見や打ち合わせはとても重要です。
    • まずは電波強度の下見
    • ホールによっては演奏中だけ妨害電波を出すようなところもあるという噂は耳にしますので、そのような設備や運用がどうなっているのか、そしてその運用を停止できるのか?は、ホールの打ち合わせのときに必ず確認するべきです。
  • 回線の冗長性
    • 携帯のテザリング回線で、ethernetで言うところのチーミング的なことをやるのは、サーバ1個立てれば「理論上は」出来そうといったところですが、そこのサーバがSPOFになっては元も子もないということで、やめました。お勧めもしません。
    • そういうサービスを提供している事業者も調べました。営業トークを見る限り、上手く冗長化できてそうな感じでしたが、費用がある程度*3は必要になることと、テスト期間が足らずに導入を見送りました。
    • 実務上、コールドスタンバイ的なバックアップのみの準備になることが多いでしょう。
  • 最善の策は、ホールの回線を何らかの形でお借りできること(固定の光回線とかを期待)ですが、そんなサービスを提供しているホールの実在は確認できておりません(あったら教えて下さい)。もしかすると、ホールに公衆無線LAN的なのがあるかもしれませんが、それは他の利用者によるDoS攻撃(善意か悪意かは問わない)を受ける可能性があるため、避けるべきです。

電源供給

  • ホールの下見・打ち合わせのときに、設置予定場所にAC100V電源があるのかどうか、確認するべきです。
    • 通常は大丈夫でしょうけども、消費電力量の上限も見ておくと良いでしょう。
    • 電源供給があっても場所が遠い場合、電ドラ等が届くのか、そしてその配線でお客様が転倒したりしないための相当な配慮が可能かどうか検討しましょう。
  • AC100V電源の供給が無い場合、大容量のモバイルバッテリを用意することになるでしょう。

筆者の場合は以下の 25600mAh のAnkerのバッテリを用意しました。テストでは、MacBookAir2020(春に発売された Intel CPU のモデル)の配信で、3〜4時間くらいは楽勝で電源供給できていました。出力はUSB-AとUSB-Cなので、USB-Cでの電源供給に対応していないノートPCを配信に使うときはバッテリでの電源供給に苦慮することになるでしょう。

著作権

配信を考えるとき、まず真っ先に検討することの一つに著作権があります。(最初に書けよ、ってのはそうなんですが…)
どんだけ素晴らしい演奏でも、どんだけ技術的に最高な配信であっても、ここが疎かではアレです。初手は、JASRACのこのページに沿って検討をすることになるでしょう。
www.jasrac.or.jp

配信プラットフォーム

まず、事実上、上記のサイトの JASRACと許諾契約を締結している動画投稿サイト に限定されるものであると見て良いでしょう。リスト中のどのプラットフォームを選択するのか?は配信のし易さと想定客層の2方面から検討することになると思います。筆者は2020年時点だと YouTube を最優先で検討し、 Facebook は二番手に据えています。これらの相違点を簡単に表にしておきます。

要素 YouTube Facebook
機材の制約 原則はPC限定。チャンネル登録者が1000人を超えるとモバイル機器から配信可能?らしい。 PCおよびモバイル機器から可能
視聴者のログイン 不要 たぶん必要
URL 事前に固定できる。配信が途絶えた時はURLが変わることに注意(たぶん) 配信開始するまで決まらない(事前の宣伝においてはFacebookページを宣伝することになる)
配信後の公開停止措置(著作権がらみでほぼ必要) 手動。どっかに設定ある気がするけど忘れた。 手動。モバイル端末ではできない(筆者の場合)ので、モバイル端末で配信する場合もPC持ち込み必須。
配信者のアカウント 要・Googleアカウント。1つのチャンネルを複数人(複数のGoogleアカウント)で管理する仕組みはありますが、2020年11月時点では、ライブ配信はアカウントのオーナーでなければ配信できませんでした。二要素認証とかには要注意。 Facebookのページから配信することになるでしょう。ページの適切な権限のあるFacebookアカウントであれば配信はできます。

Facebookで配信する場合

Facebookではモバイル機器での配信が可能なので、ここではその前提で書きます。PCでやるならYouTubeで配信した方がずっと良いと思いますので。
Android端末ではテストしてないので何とも言えないのですが、iPhone / iPad で配信すると、

  • FacebookiOSアプリは、「良い感じ」に映像を圧縮してくれます。綺麗な映像の割には、データ量はそんなに消費しませんでした。(個人の感想です)
  • 音声
    • さすがに iPhone / iPad の内臓マイクではつらいところがあります。特定の周波数だけ大きく拾ったり(端末内のどこかが共鳴してる?)してました。筆者の端末では、ティンパニやベースの C♯ / D♭ の音を極端に大きく拾っていました。
    • そのため、外付けのマイクを使うのが良い、ということになります。
  • 映像
    • Apple製端末の内臓カメラは、なかなかのものです。時々オートフォーカスの処理が動く(ちょっと拡大されて焦点が合う)ことは難点としてあります。
    • FacebookiOSアプリは、拡大も簡単です。
    • 拡大を上手くやっていれば、絞りとかの調整も上手くやってくれます。よくできてる!
  • 電池
    • 外付けのマイクをlightning接続する場合、そのままだと電源供給の道が断たれてしまいます。電源供給とマイク接続を両立できるアダプタ(この場合は外付けマイクはUSB接続が有力候補になる)を調達したり、Bluetooth接続のマイクをテストしたり、iPadの大容量の電池に期待したり、そういったことを考えることになります。

Apple Lightning - USB 3カメラアダプタ

Apple Lightning - USB 3カメラアダプタ

  • 発売日: 2016/03/23
  • メディア: Personal Computers

YouTubeで配信する場合

チャンネル登録者数が1000人を超えてモバイル端末からライブ配信できる人は相当な知識量をお持ちでしょうから無視しつつ、ここではPCで配信する前提の話をします。

  • まず、YouTubeは配信が途絶えると、配信URLが変わってしまいます。万が一、本番のライブ配信でこれが発生したときにどのような行動を取るべきか、事前によく検討しておくべきです。
    • 筆者の場合、YouTube動画(途絶えたところ)の説明欄で、新しい配信URLへ誘導することを検討していました。
    • 聴衆の多くがチャンネル登録者でることを想定する場合、そんなことを心配することは不要で、新しい配信を開始すれば多くの人がそちらを見てくれることでしょう。知らんけど。
  • YouTubeからの配信は大きく分けて2種類あります。一つは簡易な配信をWebブラウザからやる方法、もう一つは OBS のような配信ソフトを使う方法です。細かい設定をしないなら前者がお勧めで、いろいろやるなら必然的に後者になります。「機能の違いがわからん」とか「どちらが良いのかわからん」とかのときは、PCに使用する機材をつなげて前者でテスト配信をやってみて、満足したら前者を使う、で良いと思います。ここでは後者、OBSを使った場合の話を書きます。
  • YouTubeでは、遅延が大きい方が、視聴者の観点では「途切れない綺麗な配信」になります。ホール演奏のライブ配信においては、チャットでやり取りしながらってことは少ないでしょうから、遅延は標準の遅延にしておく方が圧倒的に有利です。筆者の事案では、おおよそ20〜30秒程度の遅延になりました。
  • OBSは、我々のような素人が起動してすぐに使い方がわかるようなものではないです。必ず、練習をしましょう。ぶらさがってる項目は注意点です。
    • 「基本解像度」と「出力解像度」は同じ値にしましょう。こうすることで、配信画面に余白が入るのを防止できたり、CPU資源(ひいてはバッテリ)の節約が期待できたりします。デフォルト?では異なるように見えます。
    • 映像ビットレートは重要です。回線速度に対して大きすぎると、コマ送り映像みたいなのが配信されたり、音と映像がズレたりします。小さすぎると、ご想像の通り、不鮮明な配信になります。どちらかに誤るのならば不鮮明な配信にした方が良いだろうとは思いますが、この辺は演奏スタイルによるかもしれません。弦楽器セクションがあったりして見た目の動きが激しくなる場合は要注意ですね(映像データ量が増える)。
  • マイク
  • カメラ
    • 簡易的にはWebカメラを使うことになりますが、こいつらはズーム(拡大)ができないものも多いので注意です。ズームできないということは、舞台を撮影しようとしたときに、カメラの視界には舞台の外もそれなりの量で写るということです。そうするとどうなるかというと、カメラの絞りが自動調節された結果、舞台上の映像は白飛びして何も見えなくなります。なので、ズームできるやつがほぼ必須と考えて良いでしょう。
    • カメラはUSBで接続できれば最高なのですが、そういうものの調達が難しいときは、HDMI出力のあるカメラを使い、HDMIの映像をPCに取り込むという仕組みになるでしょう。
    • 機材の故障でどうしようもなくなった時は、PCの内臓カメラで撮ることになります。PCを高いところにおくことになるのですが、
  • 放熱
    • PCは発熱しますので、排熱の設計が重要です。ふかふか絨毯やふかふか椅子にPCを置くと排熱が死んで熱暴走する危険性があります。すのこ?のようなものを用意すると良いかもしれません。ケーブルを上手く取り回してふかふか椅子の上に置き、その上にPCを置くという緊急回避策もありますが、よく考えましょう。

もしかしてこれは機材沼なのでは?

はい、そうだと思います💸

事前準備

  • バンドの練習の様子を、配信するべきです。社会人バンドで職業に多様性のあるバンドならばエッセンシャル・ワーカーやそれに近しい人である等の理由で練習に参加できないメンバーが居たりすると思います。理由はさておき、練習には参加できないけれどもその時間に自宅に居るというメンバーにテスト配信の様子を見てもらうことは、とても重要です。設定の誤りにすぐに気づくことができます。Facebookならグループ内で配信すれば良いですし、YouTubeなら限定公開をすれば良いです。なるべく、本番で使う予定の機材セットに近い方が良いです。
  • 何度も書きますが、ホールの下見や、ホールの技術者さんとの打ち合わせはとても重要です。ホールの下見においてテスト配信もやった方が良いです。できれば照明も本番に近い方が良いですが、これは難しいかもしれません。
  • アンケート。会場だと紙でやってるやつを、ライブ配信を見てる人には Google Forms とかで記入してもらうのは良いかも(最近は会場もWebなのかな?)

会場リハで確認すべきこと

当日または前日に、会場でリハーサルをやると思います。そこで確認するべきことを書いておきます。これまでに述べたものと重複するものを含みます。

  • カメラ方面
    • 照明環境に耐えられるか?
    • 設置場所は安定しているか?(振動とか)
  • マイク方面
    • ボリュームの調整するポイントは理解できているか?(マイクそのもののボリューム、PCの入力音量、OBSの音量、等)
    • 「高い周波数の大きな音」「低い周波数の大きな音」それぞれ音割れしないボリュームを探れているか?
    • 英国式金管バンドの場合、普段は楽器のベルは客席を向きませんが、コルネットが客席を向くとか、トロンボーンが動くとか、銅鑼がすごいとか、そういう場面はきちんとテストするべきです。
    • 設置場所は安定しているか?(振動音とか拾わないか?)
  • 回線方面
    • 接続できてる?
  • 電源方面
    • バッテリの減りは予想よりも早かったりしない?
    • (AC電源の供給が無い、かつ当日朝リハの場合)朝のリハでテスト配信した後、開演までの間に再充電は完了するかい?

さいごに

機材沼、みんなで沈めば 怖くない。

*1:英国式金管バンド

*2:管楽器アンサンブル、吹奏楽、オーケストラといったものを想定。アンプが入るようなものは主に音響方面で考えることが異なるはず。

*3:機材を買い漁る費用よりは安い

*4:両足ではない