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職業プログラマの休日出勤

職業プログラマによる日曜自宅プログラミングや思考実験の成果たち。リアル休日出勤が発生すると更新が滞りがちになる。記事の内容は個人の意見であり、所属している(いた)組織の意見ではない。

退職

この3月末付けで会社を退職しました。
後年の僕自身の為にも、今の想いなどなど書き置きしておきたいと思います。
日付はエイプリル・フールを指し示していますが、ネタではありません(たぶん)。

どんな仕事をしていたのか?

SIerに勤めていて、業務用アプリケーションを開発したり面倒見たりしてました。その多くはWebアプリですが、そうではないプログラムもいろいろと作っていました。相当な数の製品/システムを開発してリリースしてきましたがその全ては業務用であるため、一般の皆さんの目に触れうるものは1つか2つくらいしか存在しません。
あと、SIerに勤めていてって言うのは実は正確な表現ではなくて、小規模な人材派遣会社に所属していました。派遣とは言っても登録型のそれではなく、業界ではよくある「特定派遣」です。派遣元の企業に正社員雇用されるという形態です。「なんでそんな所に就職したんだよww」というツッコミもありますが、諸事情あってのことです。まあ、一言で言うと、プログラミング技術を活用できるのならどこでも良かった、ってことです。

この先、何をして生きていくのか?

現時点ではこちらも具体的には書けませんが、某「年齢制限のあるもの」にチャレンジします。それ自身は十分な収入を得られるものではありませんが、将来の収入を安定させる薬剤の一つになりえるものです。僕にとっては課せられている年齢制限が間近に迫ってきているので、この機会を逃すと二度とチャレンジすることができません。いや、正確には年齢が高い人もチャレンジできるのですが、それには多大なコストを要します。事実上、もう今しかありません。

僕に退職を決意させたもの

前述のチャレンジの件が最大の理由ではありますが、これ「だけ」の理由で退職に至った訳ではありません。他の理由をいくつか挙げておきましょう。

金銭的理由

まあ、よくあることです。十分な金銭が得られているのであれば、前述のチャレンジのことなど考えることすら無かったでしょう。

評価制度の限界

これもよくあることのようですが、派遣会社でまともな人材評価ができる訳がありません。いや、普通の企業においても極めて難しい課題でしょう。どれだけ技術を身に付けても給料は同じようなものです。ネット上で喚き散らしている人には「社長の脳みそ腐ってる」とか言っている人が多いようですが、僕はそうではないと考えます。会社間の契約が問題の根底にあるように見えます。詳しく触れると極端に長くなるので割愛します。

「四方よし」の限界

江戸時代の近江商人の精神を表す言葉として「三方よし」(さんぽうよし)というものがあります。これは「売り手よし、買い手よし、世間よし」をひっくるめたもので、これらを実現してこそ商人として勝てるのだ、ということのようです。この言葉通りに商いを進めていくためにはきっと甚大な努力と知恵が必要だったことでしょう。
それでは、僕の仕事にこれをあてはめてみると…

  • エンドユーザよし
  • SIerよし
  • 派遣元企業よし
  • 世間よし

の「四方よし」(しほうよし)が求められる状況でした。エンドユーザ(システムの利用者)の利便性を向上させることは、企業における情報システムを開発する最大の動機ですから、まず「エンドユーザよし」を満たさなければなりません。また、変な情報システムを構築して世間様に迷惑をかけてはなりません。例えば、システムからのメールが誤って一般の方のお手元に届いてしまっては困りますよね。これが「世間よし」。
そして、僕はボランティアではなくてメシを食うために情報システムを開発している訳ですから、給料を貰わなければなりません。ここで必要となってくるのが「SIerよし」と「派遣元企業よし」です。これらの会社は営利企業ですから、利益を追求するのは当然ですし、僕ら技術者もそれに協力しなければなりません。しかしながら、これらの会社の間で獲得したい利益の性質が食い違っているため、それに協力するのは極めて難しいものです。これは僕のいた環境に限った話かもしれませんが、SIerは数ヶ月から数年に渡っての長期間で観測したときの大きな利益を獲得したがり、派遣元企業は1ヶ月単位での利益を獲得し「続け」たがります。これら2種類の利益要求を同時に満たすのは至難の業です。僕はここで心が折れました。
もう一つ、心が折れた原因があります。エンドユーザから素晴らしいアイデアが寄せられても、契約上の都合で実現できないことがあります。技術的に簡単なことであっても実現できないことがあるのです。勝手に実現するとSIerや派遣元企業の利益を「不当に」減少させることに繋がります。場合によっては税務署から怒られることもあるでしょう。こういった状況は非常にもどかしいものです。目の前にある素晴らしい情報システムが立ち消えしていくのです。僕には契約内容変更の話を各社に強いるような権力などありませんし、タイムマシンに乗って契約締結時の契約書の文面を変更することもできません。
この「四方よし」、1つでも利害関係者を減らすことができれば、よりシンプルになってやる気も出てくるのに、と思います。但しこの想いだけで「俺はSIerに再就職するんだ」とか「俺はユーザ企業に就職するんだ」という手法に出ることはありません。SIerの中の人にとっても、人材派遣会社をなかなか切ることはできません。こういう会社にある程度の利益を確保してあげないと、ビジネスモデルが崩壊してしまうのです。ユーザ企業の立場でも同じことで、SIerにある程度メシを食ってもらわないと業務が回りません。誰もが目的達成のための本質とは遠いところで無駄な苦労をします。僕の欲求はビジネスモデルや業界構造をガラっと変えてしまいたい、というところに向かいます。(とは言っても一生この業界に戻ってこないという訳ではありません。他に職が無ければ戻ってくるでしょう。)

技術を制約する情報セキュリティ対策

ここ数年で情報セキュリティ対策が力強く叫ばれるようになってきました。それ自身は非常に重要なことで、例えば構築した情報システムには外部から不正に侵入されたりしないように設計する必要があります。SIerという環境においてもセキュアプログラミングといった話題にようやく光が当てられ始めました。ファイアウォールの動作について興味を持ってくれた人が周囲に増えたというのも非常に喜ばしいことでした。
その一方で、身分を問わず従事者に対する行動制限も強く課されるようになってきました。これは私が関わってきた企業だけの話ではなく、多くの企業での話です。その行動制限が例えば「作ったソフトウェアの内容について公開してはならない」などの守秘義務や、「会社のPCを持ち出してはならない」という内容だった時代は良かったのですが、作業場への私物PC持ち込み禁止などが課されるようになってきました。これでは仕事の後で勉強会を開催したり参加したりするのは事実上不可能です(そもそもそんな時間に帰れるのか?という問題もありますが。笑)。また、昼休みに電子書籍端末で技術書を読むことも禁止、大学の教授さん等によって配信されている技術解説PodCastも聴けない。これではモチベーションは下がる一方です。
「入力されたデータは汚いものだと仮定して処理する」という性悪説的な考え方は情報システムをセキュアにする重要な原則の一つですが、身元の割れている従業員に対してもこの性悪説的な考え方を適用している訳です。こういう考え方そのものが悪いとは思いませんが、その結果が技術の習得と発展を強く制約する形で現れている点に大きな問題があります。

技術に興味の無い権力者

ある日、一緒に仕事をしていた派遣元企業のメンバー数人と飲みに行く機会がありました。その席には派遣元企業の幹部が何名か同席していました。僕はメンバー達と「○○社の△△って製品は凄い!」とか「いま□□な市場に参入すると十分な先駆者利益を得られそうだ!」という話を熱心に繰り広げていたのに対して、隣で幹部連中がしていた話は博打の話でした。博打と言っても投資の話だったら良かったのですが、実際の話の中身は競馬やパチンコです。1m先で会社の収益を改善しうる技術的な話をしているのに、これです。従業員の模範となるべき権力者たちが、全うな儲け話には絡もうともせず、反社会的な金遣いに興じる。僕らが稼いだ利益の一部が彼らの博打の原資になってるのかと思うと、やる気が一気に失せました。
この日からしばらくの間は怒りが収まらず即時退職したい気持ちで一杯でしたが、それでも仕事場には手塩にかけて育ててきた可愛い情報システム達が待っていたので思い留まりました。少しは耐えました。

背負うべきリスクと回避すべきリスク

僕は退職するにあたって、ただでさえ少ない収入が更に少なくなるという生活のリスクを一時的に背負います。しかしながら、このリスクから逃げ回っていては「素晴らしい情報システムを作ることができない」とか「保有している技術が陳腐化していく」といった将来を脅かす大きなリスクを背負ってしまうことになるのです。
将来、社会情勢や周囲の環境が変わっていけばその時々で、背負うべきリスクと回避すべきリスクを適切に判断していく必要があるでしょう。場合によっては僕は今と全く違うことを言っているかもしれません。その時は「考えがブレやがった!」などと叩かずに「あぁ、周辺環境が変わったんだな」などと考えて頂ければと思います。