職業プログラマの休日出勤

職業プログラマによる日曜自宅プログラミングや思考実験の成果たち。リアル休日出勤が発生すると更新が滞りがちになる。記事の内容は個人の意見であり、所属している(いた)組織の意見ではない。

「急ぐ」を科学する

日常的に使われる「急ぐ」という言葉。

「急いで」「至急」「ASAP」(As Soon As Possible : 可能な限り早く) …これらは人から言われてイラっとくる言葉の一部ではありますが、急いでと言われたら、実際に素早く目標へ到達できていることも結構あるものです。
でも、ちょっと考えてみて下さい。人間の日常生活の所作や仕事などが、たかが「意識する」程度のことでそんなに速くなるのでしょうか? 気をつけるだけで速くなるというのなら、精神論だけ振りかざしてる連中のドヤ顔がもっと誇らしげになっていってしまうではありませんか。そんな様子はもう二度と見たくはありません。

「急いで」と言われたとき、あるいは自ら「急ぐよ」と言ったとき、我々の行動には一体どのような変化が起きるのか。
そういった考察を通して、どのような条件が整っていれば急ぐことができるのか解明していこうではありませんか!

例1:目的地へ「急ぐ」

はじめに、恐らく最も身近な例であろう、移動中に目的地へ急ぐときのことを考えてみましょう。

徒歩で移動中なのであれば、歩く速度を上昇させるか、走ったりすることがあります。普段使わないエネルギーを消費して急ぎます。
電車で移動中なのであれば、「スピード上げてよ」と心の中で思うしかありません。駅などで稀に、車掌さんや運転士さんに向かって「はよ発車せいやボケが」と怒鳴る生物が存在したりしますが、これは逆効果でしかありません。電車の運行に必要な係員という限りある資源がその愚か者のために浪費されてしまうからです。
自動車で移動中なのであれば、徒歩の時と同じように速度を上げるというのが一般的な手法ですが、事故を起こす/起こされる危険性が高まったり、速度制限に抵触するリスクが高まります。速度を上げ過ぎれば部品の消耗を早めることだってあるかもしれません。

また、どの移動手段でも共通して利用できる手段として、近道したり、より時間距離の短いルートを採用するというものがあります。これの実現には知識や情報が必要ですし、そもそもそのような手段は存在しないという場合もあります。

もちろん、他の移動手段に切り替えることを視野に入れることもありますし、寄り道したり素晴らしい景色を見たりするのを諦めることで急ぐことだってできます。

例2:「急いで」文章を書く

次に、急いで文章を書くときのことを考えてみましょう。

急いで書いたときに誤字脱字が多くなるという経験は多くの方が持っていることでしょう。場合によっては文章の中で辻褄が合わなかったり、説明になっていなかったりということだって発生するでしょう。他にも、必要な説明が丸ごと抜け落ちていたり、方言が混入していたりといったこともあります。まるで、どこかのブログの記事のようですね。(どこのブログだろう…。あれ、耳が痛いゾ…)

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?
一番大きな原因は、確認する時間、読み返す時間を削ってしまうからではないかと考えています。その次に大きなのは、ゴールを急ぐあまり、アウトラインをきちんと固める前に文章を書き始めるからではないでしょうか。
このあたり(原因の数々)については人それぞれの文章の書き方によるところは大きいでしょうけれども、急いで書いた文章の問題点というのは多くの人に共通しているように見えるものです。
いずれにしても、我々は文章の品質が低下するリスクを背負うことで、文章を速く書くことができるようになるのです。

「急ぐ」とはどういうことか

たった2つの例から結論を導き出すのはかなり乱暴かもしれませんが、急ぐのに必要なものとして次のようなものが考えられます。

  • 当初の想定よりもコスト(エネルギーや資金など)を費やす
  • 品質を下げる / 目標の一部分を諦める
  • 他の目標を諦めたり後回しにする
  • リスクを背負う
  • そもそも目的を達成する為の手段を変更する(これは有効ではない場合がある)

これらは代表的な例であって他にも色々あるでしょうけれども、こういう行動を取ってこそ、人間は急ぐことが可能になるのです。「急ごう」と思ったとき、意識しているから速くなるのではなく、これらの行動を取っているからこそ速くなるのです。

また、走る場合も文章を書く場合も、いずれも訓練を重ねることによって速度を上げることは可能です(限界はあるでしょうけれども)。実際には速度が上がる効果よりも、急ぐときに背負わなければならないコストやリスクを低減させる効果の方がずっと大きいでしょう。走る場合であれば、訓練することによってより少ないエネルギーで走ることができますし、文章を書く場合であれば、より整合性を取り易い構築法を訓練で身につけることができます。
そうやって日頃から備えておいた上で、急がなければならない状況下で力を発揮することは大変望ましいものです。

残念なのは、急がなければならない状況というのは大抵、こういう準備が整う前にやってくるということです。

急ぐチーム

ここまでは個人の活動を急ぐ際の話をしてきました。
話は変わって、次は組織の話をしたいと思います。

急ぐときに取り得る選択肢というのはほぼ個人のときと同じなのですが、組織の場合は考えなければならないことが1つ増えます。
それは、急ぐ手段に矛盾が生じにくいようにしなければならない、ということです。

例えば、「品質を下げて急ぐ」ことと「追加人員や残業代などの費用を追加負担して急ぐ」こととは、上手くやらなければ衝突してしまいます。
一見すると矛盾すること無く運用できそうな気もしますが、品質下げる派の出す見積(品質を下げる前提で少ない作業時間を見積もる)を他派の人が見て誤解(高い品質のまま少ない作業時間で実現可能であると思い込む)して破滅へ向かって行く、といったことは頻繁に発生するものです。

これは急ぐときに限った話ではなく集団行動では常につきまとう問題ではありますが、急がなければならないような状況でこそ、特に気を付けなければならないのです。

また、「チーム」「組織」といった表現を使っていますが、同じことは発注者・受注者の関係にもあてはまります。当事者はチームを組んでいるという意識を持っていないことも多いでしょうけれども、実際の動きはチームとしての動きになるのです。


さいごに

この長い文章を最後まで読んで下さった皆さん、そんなに暇ならもっと本業に時間を費やすことによって仕事を急ぐ必要も無くなるのではないでしょうか?

…というのは冗談で、こういった考察が皆さんの日常生活の改善につながれば幸いです。

急がば回れという言葉もありますが、回るだけなら猿でもできます。どう回るのかは何通りも考えられるものです。もちろん回らない方が良いことだってあるでしょう。
より良い道を選択できるようになりたいものです。