職業プログラマの休日出勤

職業プログラマによる日曜自宅プログラミングや思考実験の成果たち。リアル休日出勤が発生すると更新が滞りがちになる。記事の内容は個人の意見であり、所属している(いた)組織の意見ではない。

ヴァルヴ系金管楽器奏者がTromboneを練習すべき3つの理由

ヴァルヴ系の金管楽器とは、ピストン・ヴァルヴを装備したTrumpet, Cornet, Tenor Horn, Baritone/Euphonium, Bass等や、ロータリー・ヴァルヴを装備したTrumpet, French Horn, Tuba等を指します。いずれも指でヴァルヴを操作することにより管長を変化させ、倍音列を変更する仕組みを持った楽器です。これに対してTromboneという楽器はスライドを伸縮させることにより管長を変化させます。区間は限られますが(数学的な意味の)連続性を持った管長の変化が可能です。同じ金管楽器と言えども、ここまで来ると「全く違う楽器」と言って差し支え無いでしょう。しかしながら、Tromboneを練習することで得られる効果には大きなものがあります。ですから、自分が本業として演奏している楽器の上達のために、敢てTromboneの練習をするのです!
ここでは、ヴァルヴ系の金管楽器奏者がTromboneを練習することの効用、即ち「練習すべき理由」のうち、筆者が重要だと思うもの3つを取り上げます。

※(注)この記事は「自分はそれなりに吹けるけど、飛び抜けて上手い訳じゃない」という方々を対象に書いています。即ち、筆者自身に向けた記事です(笑)。もう既に十分上手い方々や、楽器を始めてまだ数年経過していないような方々にはほぼ無意味または逆効果ですのでスルーして下さい。

理由その1:ピッチへの意識を身につけられる

とある音をどういったピッチ(周波数)で奏するか。よほど強いピッチ感覚と意思を持っていない限りは、そのヴァルヴ楽器が奇麗に鳴ってくれるピッチで演奏することが多いでしょう。言わば「楽器に操られたピッチ決定」です。特に意識していなくても、このような演奏がきっと多いはずです。
Tromboneを演奏する場合だとどうでしょうか。管の長さがスライドのポジション(伸縮具合)で決定されるので、ポジションが少しでも動けば「楽器が奇麗に鳴ってくれるピッチ」は変化します。ポジションは楽器に目印が付いている訳ではありませんので、基本的には「吹きたいと思っているピッチに合った場所へスライドを動かしてあげる」という方針を持っていなければ、奇麗な演奏をすることはできません。
こういった意識をもってTromboneを練習し、ピッチへの強い感覚を身に付けた後で元の楽器へ戻ると、「元のヴァルヴ楽器は正しいピッチで吹こうとすると上手く響いてくれない」状況に直面します。非常に凹む瞬間ではありますが、ここから楽器のピッチ矯正が始まります。そして数週間後には楽器のピッチは良くなっている…はずです。

理由その2:音域の変化による適応力を習得することができる

これはBaritone/Euphonium奏者の方々にはあてはまらないですが、Tromboneを演奏するにあたっては、元のヴァルヴ楽器からは音域が変化します。必然的に取るべきアンブシュア(口の形)や息の使い方も変化させなければTromboneに適応することはできません。こうやって身につけられる適応力は、元の楽器に戻ったとき、広い音域を演奏するために重要な糧となります。これは、決してTrumpet奏者が「Trombone吹けるからLow-Fも楽勝」とか、Bass奏者が「Trombone吹けるからHigh-G楽勝」という話ではありません。言い換えれば「上手く試行錯誤する能力」となりますでしょうか。Trumpetでの高音、Bassでの超低音を演奏するのにも必要な能力です。

理由その3:連続した息を送り込む練習になる

ヴァルヴ系の楽器を演奏するとき、ほとんどの場合はフレーズの途中でヴァルヴの運指により管長を変化させます。このとき、僅かな時間ではありますが、楽器に息の入らない瞬間が生まれます。長いことヴァルヴ系の楽器を演奏していると、この「息の入らない瞬間」が「息を入れない瞬間」として習慣づいてしまいます。さらに長いこと継続すると、この息を入れない時間はどんどんと長くなっていき、フレーズとしての連続性が損なわれていきます。これは非常に好ましくありません。
一方、Tromboneでは基本的にスライドの操作で管長を変化させるので、この「息の入らない瞬間」は生まれず、連続した息を送り込むことが非常に容易です。この習慣が身に付けば、元のヴァルヴ楽器に戻ったときにも息を入れ続けることによって、きれいに繋がったフレーズを演奏することができるようになります。
なお、Tromboneでこういった息づかいをすると「ポルタメント」と言って、意図しない中間音を鳴らしてしまう現象が発生しがちになりますが、これは息づかいの変更ではなくて華麗なスライド操作で乗り切ることがTromboneの良い演奏の秘訣です。これは非常に難しいことですけれども。
元のヴァルヴ楽器に戻った時の成果を最大限に得ようとするならば、あまりポルタメントのことは気にしない方が良いでしょう。

練習に使う楽器

友人などから気軽にTromboneを借りられる場合はそうやって調達すれば良いのですが、友人のTrombone奏者が高級な楽器ばかり揃えていたり、彼らが「敏感な」奏者である場合などは借りることはできません。その上に、スライドの操作に慣れていない場合はスライドを飛ばしてしまうリスクもあります。従って、前述の3つの目的を達成するためには安価なTromboneを購入するのが最も良い手段だと言えます。
また、Tromboneにもいろいろ種類があります。マウスパイプの種類は「細管」「中細管」「太管」の3種類があり、それぞれ使うべきマウスピース(のシャンクの太さ)が異なります(これはEuphoniumも同じ)。文字通り「細管」は細く、「太管」は太いです。高音系やBaritoneの奏者の皆さんは「細管」の楽器を、Bass/Tuba奏者の皆さんは「太管」を選択すると良いでしょう。Euphonium奏者の皆さんは現在使っているものと同じが良いでしょう。ほとんど太管のような気もしますが。
マウスパイプ以外には、ヴァルヴの装備にもいろいろと違いがあります。前述の3つの目的のためにはヴァルヴ無しのものでも十分ですが、太管でヴァルヴ無しの楽器はレアかもしれません(笑)。これは厳密な定義ではなくて傾向ですが、「テナートロンボーン」はヴァルヴ0個、「テナーバストロンボーン」はヴァルヴが1個(Fヴァルヴ:Euphoniumの4番管と同じ意味)、「バストロンボーン」はヴァルヴが2個、それぞれ装備してあることが多いです。
筆者は、Jupiter社の定価5万円程度の細管テナートロンボーン(ヴァルヴ無し)の楽器を愛用しています。スライドがきちんと動いてくれたらそれで良いのです。楽器の「鳴り」は後から矯正できます。

楽器を入手したら

演奏前後のお手入れ、楽器の持ち方などなど、いくつか学ばなければなりません。この辺は、他のサイトやご友人などに教えてもらって下さい。時間や費用の許しがあるのならば、Tromboneの教室に通うのも良いでしょう。

最後に

皆様、素晴らしい金管楽器生活を!!